東北の田舎に生まれ県内のそこそこの進学校から県内の国公立大学へ進学
情報系学部を出て地元ではなく東京でそこそこの企業へ就職した
その後何度かの転職を経て大手企業へ滑り込むことに成功し仕事を満喫している
プライベートも関東圏で趣味の合う友人がたくさんでき気軽に飲みや遊びに行ったりしている
好きなバンドのライブや推してるコンテンツのイベントもほとんど関東で開催されるおかげで稼いだ金を使って充実した生活を送っている
自分には妹が一人いる
高校あたりから引きこもりがちになり、なんとか通信制高校と短大を出たものの、就職に失敗
その頃から鬱を発症し、ほそぼそとパートをやりながら実家で両親に頼りながら生活していたようだ
ある日、母親から切羽詰まった声で連絡が来た
妹がクレジットカードのリボ払いで、多額の借金を作っていることが判明したらしい
確かに実家に帰省するたびに漫画やフィギュアが増えており、こっそり覗いていたツイッターではFGOのガシャで一喜一憂しているツイートがたくさんあった
てっきり少ない収入をやりくりしながらやっているもんだと思っていたが、まさか借金に手を出しているとは
その時は債務整理をして、母親の退職金などからやりくりして払っていたらしい
当の本人はそのことがきっかけで更に鬱が悪化し、仕事や家事もせず引きこもって朝から晩までゲーム三昧だったようだ
それもつかの間、母親から金を貸してほしいと、突然の連絡
話を聞くと、どうやら妹が他にクレジットカードを持っていたらしく、それを使って課金をしていたらしい
また、メルカリの後払いやペイデイなどを駆使して、自転車操業的に欲しいものを買っていたみたいだが、家に届く異常な量の荷物に流石にバレたらしい
これには自分もほとほと呆れ果てたが、母親のためと言う名目でまたいくらか金を渡していた
自分もそんなに蓄えがあった訳では無い
ただその時たまたまノリで行ったスロットで大勝ちしたり、会社の臨時賞与が入ったりしたおかげで、なんとか金を工面できた
昔は一人の大事な妹だと思っていたが、2度もそんなことがあると、もうどうでもよくなってしまった
血の繋がりとか家族の情とか、そういうものが音を立てて崩れていく感覚だった
両親は自分を遅くに生み、もう70を超えている
父親も昔の元気さは見る影もなく、今では歩くときには杖をついている
母親は2回目の借金判明の頃に乳がんを患い手術をしている
そのがん保険金は治療費だけでなく、家の生活費や妹の借金、国民健康保険料にまで消えていったらしい
持ち家があるのでどちらかが亡くなったら実家に戻らなきゃいけないかもしれないな、と漠然と考えていた
しかし先日ついに母親が病に倒れてしまった
術後の経過が芳しくなく今月が山だと医師から言われている
実家には年金をもらっている父親と障害年金をもらっているうつ病の妹
そもそも家事すら母親に任せっきりにしていた二人しかいなくなる
今の仕事は幸いなことに許可を取れば全国どこでもフルリモートで仕事してよい会社だ
エンジニアとしての経験年数の割には給与は低いものの、それでもある程度はもらえている
ついにその日が来てしまったと実家に戻る決心をした
都落ちだ
先が長くないかもしれない母親の看護に、老齢の父親の世話、そして双極性障害を持つ妹のいる実家
これまで享受していた娯楽がない地方都市
毎週末のライブハウスが、蛙の鳴く田んぼ道に変わる
深夜まで開いていた飲み屋が、20時に閉まるスーパーに変わる
そんな生活に、自分は耐えられるのだろうか